今回はてんかんと「運転免許」について取り上げたいと思います。
このニュースを取り上げるにあたり、
てんかんに関連した交通事故で亡くなられた方のご家族、ご関係者の方々には、
改めて心よりお悔みを申し上げます。
医師を中心とした学術団体である「日本てんかん学会」は、
2012年10月11日付で「てんかんと運転に関する提言」を公表いたしました(文献1)。
みなさんもそのことを新聞やテレビやウェブサイトでご覧になったかと思います。
日本てんかん学会では、
学会員へのアンケート調査、委員会での議論、ワークショップでの討論の後に、
10月11日付で提言を公表することがあらかじめ学会員にも周知されていました。
しかしながら、私は実際の報道を目の当たりにして、少なからずショックを受けました。
この報道では、とても私たちの考えが伝わらず、良くないことになると感じました。
以下が10月10日付の第一報です。
「てんかんの運転免許条件「緩和を」 学会が提言」
(朝日新聞デジタル 2012年10月10日付)
http://www.asahi.com/national/update/1010/TKY201210100307.html
てんかんの持病がある人が車の重大事故を起こした問題を受け、
日本てんかん学会(兼子直理事長)は運転免許の要件の見直しを求める提言をまとめた。
現状は、免許取得にはてんかん発作が「2年間」出ていないことが必要だが、
「1年間」に短縮。
条件を和らげることで、正しい発作の申告につなげたい考えだ。
10日、東京都内で開かれた理事会で正式決定した。
提言では、免許取得に必要な発作がない期間について、
現行の2年から1年に短縮するよう求めた。
このほか、発作で更新が認められなかった人については、
その後1年間発作がなければ、新たに免許を取り直さなくても
更新で手続きが済むようにすることも盛り込んだ。
みなさんはどうお感じになったでしょうか?
その報道の直後より、ウェブサイトを中心に批判や疑問の声があふれることになりました。
「重大事故を受けた見直しのはずなのに、
どうして発作のない期間が長くならずに短くなるのか?」
このように感じることは、ごく当たり前のように思えます。
その2日後に日本てんかん学会の公表を受けた一斉の報道がありました。
以下が10月12日付の報道の一つです。
「てんかん学会 交通事故防止へ提言」(NHKオンライン 2012年10月12日付)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121012/k10015687161000.html
てんかんの発作が原因とみられる交通事故では、
発作を申告せず免許を取得するケースが多いことから、
専門の医師で作る学会は、症状を申告しやすくすることが事故の防止につながるとして、
免許取得の条件となる発作が起きていない期間を、いまの2年以上から、
海外の多くの国に合わせて1年以上に改めるべきだとする提言をまとめました。
これは、11日、日本てんかん学会が記者会見して明らかにしたものです。
てんかんの患者が免許を取得するには、
2年以上発作が起きていないという医師の診断書などが必要ですが、
去年、栃木県鹿沼市でクレーン車が小学生の列に突っ込み6人が死亡した事故では、
運転していた男がてんかんの持病を隠して運転免許を取得していました。
学会によりますと、
おととし1年間に起きたてんかんの発作が原因とみられる事故71件のうち、
大半の66件で発作があると申告せず、免許を取っていたということです。
背景には、運転できなくなると仕事を失うなどして
生活に支障が出るおそれがあることが指摘されています。
このため学会では、症状を申告しやすくすることが事故の防止につながるとして、
免許取得の条件となる発作が起きていない期間を、
いまの2年以上から海外の多くの国で採用されている
1年以上に変更すべきだと提言しました。
みなさんはどうお読みになったでしょうか?
私はこの報道もかなり不十分ではあるけれども、
第一報よりは私たちの考えが少しは盛り込まれているように思いました。
それは、
・てんかん発作による事故の大部分が発作が持続している患者さんによる事故であること
・海外の多くの国では発作のない期間が1年間であること
です。
しかしながら、なぜ海外の多くの国では1年間であるのか、それは説明されていません。
その根拠は、
・てんかんのある人の無発作期間が1年での事故の確率は、
てんかんのない人のおおよそ2倍ではあるけれども、
25歳以下の男性の3分の1未満、女性のおおよそ3分の2、
70歳以上のご老人と同程度、
17~19時間の睡眠不足の人と同程度
それから、
・発作のない期間が2年から1年に短縮されても、命に係わる事故の確率は上昇しないこと
にあります。(文献2、3)
言い換えるならば、
「発作が1年間ない患者さんの運転を禁止するのであれば、
25歳以下と70歳以上の人と深夜の運転も禁止しなければならない」
と言えそうです。
残念ながらこの根拠が報道されることはありませんでした。
今回の日本てんかん学会の提言は、
あくまで医学的根拠による発作のない期間の適正化が主体であり、
それによる「発作の申告しやすさ」は付随したものにすぎないわけです。
てんかんにおける運転免許は重要な課題であり、
今後も取り上げていきたいと思います。

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参考文献
[1] 日本てんかん学会「てんかんと運転に関する提言」
http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/driveteigen2.pdf
[2] 日本てんかん学会「てんかんと運転に関する提言」の補足説明
http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/driveteigensupl.pdf
[3] 日本てんかん学会「てんかんと運転に関する提言」の補足説明・補足資料
http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/driveteigensuplfig.ppt