てんかんと運転免許:現状と今後
アメリカてんかん学会総会に参加する直前ですが、
てんかんと運転免許の記事を追加いたします。
この記事は、
「てんかんのニュース―てんかんと運転免許」
http://kodomonotenkan.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-d45b.html
と関連する記事になります。
MOROさんの記事「続・てんかんと運転免許について」を、
大変に興味深く拝読いたしました。
http://ameblo.jp/tm100100/entry-11414167325.html
あらためて、
「てんかん」における「運転免許」の現状と今後について、
整理してまいりたいと考えます。
2002年6月に改正されました「道路交通法」により、
てんかんにおける運転免許の取得は、
「絶対的」から「相対的」な「欠格事由」となり、
一定の条件のもとでの運転免許の取得が可能となりました。
その最低限の条件は、
1)てんかん発作が過去2年以内に起こっていないこと
もしくは、
2)1年間の経過観察の後に、
意識障害や運動障害を伴わないてんかん発作のみであること
もしくは、
3)2年間の経過観察の後に、
睡眠中のてんかん発作のみであること
のいずれかを満たすことです。
参考
日本てんかん協会:てんかんと運転免許
http://www.jea-net.jp/tenkan/menkyo.html
なお、
2)につきましては、
意識障害や運動障害を伴うてんかん発作が2年以内に起こっていない
ことを前提としていると解釈されています。
参考
てんかん情報センター(静岡てんかん・神経医療センター):
運転免許はとれますか?
http://epilepsy-info.jp/faq/%E9%81%8B%E8%BB%A2%E5%85%8D%E8%A8%B1%E3%81%AF%E3%81%A8%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%81%8B%EF%BC%9F/
その上で、
医師が「発作のおそれがない」あるいは「悪化のおそれがない」と診断すると、
運転免許が取得できることになります。
詳細は以下も参照されてください。
参考
日本てんかん学会法的問題検討委員会:
道路交通法改正にともなう運転適性の判定について.
てんかん研究 2002;20:135-138.
http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/info003.pdf
そして、
これらの条件につきましては、
先日の記事「てんかんのニュース―てんかんと運転免許」
http://kodomonotenkan.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-d45b.html
でも取り上げましたように、
「2年間」を「1年間」としても命に関わる事故の確率が上昇しないことから、
そして、
その確率は「25歳以下の男性の運転のおおよそ3分の1」に過ぎないことから、
日本てんかん学会より、
発作のない期間を「2年間」から「1年間」へ短縮することが提案されています。
参考
日本てんかん学会:てんかんと運転に関する提言
http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/driveteigen2.pdf
しかしながら、
現在の道路交通法の別の問題点として挙げられていることが、
「六月を超えない範囲内において免許を保留・停止することができる」
という条文です。
これは、
6か月以内に1)、2)、3)のいずれかを満たさなければ、
運転免許が「取り消し」になるということです。
(期間中に「特殊な事情」があればさらに6か月の保留・停止あり)
すなわち、
運転免許をお持ちの人がてんかん発作を起こした場合、
その時点での「申告」では、
その免許は「取り消し」となります。
あるいは、
更新時点での「申告」では、
てんかん発作を起こした時期と「更新」の時期との関係により、
その間が「1年6か月以上」であれば更新できる可能性がありますが、
その間が「1年6か月未満」であれば更新できる可能性はなくなります。
(意識障害や運動障害を伴わないてんかん発作では「6か月未満」)
(なお、現行法ではこれらの「申告」は「任意」と解釈されています。)
参考 毎日新聞(11月29日付)
http://mainichi.jp/select/news/20121129dde041040069000c.html
この問題点は、
警察庁の有識者会議でも検討されています。
参考
警察庁:
第6回一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会資料
http://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo4/6/siryo.pdf#search='%E4%B8%80%E5%AE%9A+%E7%97%85%E6%B0%97+%E6%9C%89%E8%AD%98%E8%80%85+%E7%AC%AC%EF%BC%96%E5%9B%9E'
*****以下抜粋(16ページ)*****
第4 一定の症状の申告を行いやすい環境の整備方策について
1 現状と問題点
イ 問題点
他方、一定の症状を呈する病気等に係る免許の可否の運用基準において、
その回復状況を見極めるために1年以上の
発作抑制期間を求めているものがあることから、
既に運転免許を受けている者についてそれらの病気に係る発作が再発した場合、
6月以内に取消事由に当たらなくなる見込みはないこととなり
必然的に免許取消処分がなされることとなる。
処分期間が経過すれば自動的に免許の効力が回復される停止処分と異なり、
取消処分を受けた者は症状が改善したとしても
運転免許の再取得に係る負担が大きいことが、
正しい症状の申告を妨げているとの指摘がなされているところである。
*****
てんかん発作が起こる理由はさまざまです。
医師から「発作のおそれがない」と診断された場合にも、
抗てんかん薬の「断薬」ややむを得ず服薬できなかった場合にも、
てんかん発作が再発してしまうことはあり得ます。
あるいは、
初めてのてんかん発作が起こる可能性はどなたにもあります。
運転免許が「取り消し」になってしまった後に、
もう一度「取り直す」のは簡単なことではありません。
「申告率」の低さの原因はここにもあるのではないでしょうか?
ですので、
日本てんかん学会は同時に、
・運転免許は「取り消し」ではなく「保留・停止」のままにする、
あるいは再取得の手続きを簡略化すること
・抗てんかん薬を減量・中止したために再発した場合には、
治療を再開して3か月間にてんかん発作がなければよいこと
(一方で減量中、減量・中止後6か月間は運転しないこと)
・やむを得ない理由(手術など)で服薬できずに再発した場合には、
治療を再開して3か月間にてんかん発作がなければよいこと
・初めてのてんかん発作の場合には、
その後の6か月間に発作がなければよいこと
なども提案しています。
今回の日本てんかん学会の提言では、
「2年間」を「1年間」に短縮することが強調されがちですが、
これらのいくつもの提案が組み合わされることにより、
「医学的に妥当」かつ「国際的に標準」であり、
さらには「申告率の改善」をも期待できる、
道路交通法の改正が達成できると考えられています。
なお、
私たちは「医学者」ですので、
あくまでも「医学的観点」からの議論が主体となります。
ですので、
「無申告」による「罰則」についての議題は、
「法学者」による「法学的観点」からの議論が必要となります。
てんかんにおける運転免許は重要な課題であり、
今後も取り上げていきたいと思います。
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